読むテニス「ウィンブルドン」

 ウィンブルドン男子シングルス決勝戦。センターコートでは世界ランク2位、オーストラリアのキングとソ連出身の弱冠18歳のツァラプキンという親友同士による白熱した闘いが繰り広げられていた。だが、舞台裏では試合を観戦中の女王暗殺の脅迫状が届いていた。「要求に従わなければ試合終了ともに勝者と女王を射殺する」。

ウィンブルドンの決勝を舞台に展開するサスペンス小説。熱血漢のオーストラリア人選手ゲイリー・キングは、ソ連の若手天才プレイヤー、ヴィサリオン・ツァラプキンと心を通わせ、はからずも彼の亡命を手助けすることとなる。

厳しい統制下から解放されたツァラプキンは、自由にテニスを楽しめるようになり、2人は親友同士としてツアーを回る。そしてウィンブルドンの決勝戦で対戦することとなるが、決勝戦を観戦する女王暗殺の計画が進行していたのだ。この件は、直情的な性格から自らを危険にさらすような無謀な計画をとりかねないキングには知らせず、冷静なツァラプキンにのみ知らされ、彼は1分1秒でもこの試合を引き延ばさねばならなくなる。

ウィンブルドンの決勝で女王暗殺計画、という設定がまずおもしろい。実際のところ、チケット入手も大変なので、そんなにうまくいくかな?とは思うが、どうやって女王の安全を確保するのか、観客に知らせずにうまく犯行を防ぐ手段はあるのか、ツァラプキンは試合を長引かせることができるのか、白熱した試合進行とあいまって緊張感が高まる。

サスペンスなのでこれから読みたいと思われている方もいらっしゃるでしょうから(急にですます調になったなw)、これ以上のネタバレは控えますが、テニスの試合をかなり丁寧に書いているのでテニス好きならそういう描写も楽しめると思います。BBCが捜査協力のため、試合を10分遅れで放送するトリックを使うのですが、インターネット全盛の今では不可能ですね。ソ連、というのも時代を感じます。あとサスペンスやミステリーには疎いのですが、犯人の動機がいまひとつすっきりしない気がしました。

なので、サスペンス小説ではあるのですが、どちらかというと、キングとツァラプキンの友情を描いた青春小説の趣が強く、半分以上は2人が友情を培っていく話になってます。特に前半はほとんどそうですね。言葉が通じない2人が友情を確認するシーンはかなり美しく描かれています。

24歳のキングはオージーらしいおおらかな熱血漢。たとえるならラフターみたいな感じでしょうか。金髪の美少年ツァラプキンは、ロシアで金髪だけどアンドレエフじゃたくましすぎるし、ヨアキム・ヨハンソンか、金髪じゃないけどグルビスみたいな感じかなぁ。というわけでそんな2人の熱すぎる友情物語……なので、そこはかとなくBLっぽさが漂うのが、そっち方面にかなりうといワタシでも気づきました。マンガ化されてますが、そのへんをもっと強調した感じでしたね。

あと、優勝した女子選手が「優勝できたのはライバルが生理中だったから」と話す場面があって、やっぱりそういうことはあるよなぁ、いつもと同じわけにはいかないよなぁ…とちょっと納得したりしてしまいました。あんまりそういう話っておおぴらに言わないし(当たり前ですが)。個人的にはPMSのイライラのほうがプレイにひびきそうな気がするんですよね。ってなんの話だ。

残念ながら絶版になっていますが、Amazonのマーケットプレイスや古書店で入手可能だと思います。

追記 2019/3/8】錦織選手の活躍もあってか、2014年に創元推理文庫から新装版で再登場しました。訳は新潮文庫版と同じです。

ウィンブルドン
ラッセル・ブラッドン(著)池 央耿(訳)
The Finalists / Russell Braddon
創元推理文庫

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